今、土佐酒が熱い!世界で受賞ラッシュの土佐酒の軌跡

みなさん、日本酒の世界で今ホットな話題をご存じですか?
実は、高知県のお酒「土佐酒」が、世界のコンテストで次々と賞を取っているんです!
2024年の全米日本酒鑑評会では、なんと金賞の数も、金賞を取った割合も全国トップ。
なぜこんなに土佐酒が注目されているのでしょうか?
日本酒離れと高知の危機感
ここ数十年、日本酒の消費は全国的に右肩下がり。
背景には、焼酎ブームやワインブーム、発泡酒やハイボールなどお酒の選択肢が増えたこと。
さらに、長年「晩酌は普通酒」という世代が減ってきたことが大きな理由です。
日本一お酒好きと言われる高知県も例外ではなく、「このままでは土佐酒の未来が危ない!」と本気で立ち上がりました。
「このままでは土佐酒が飲まれなくなる…」
そんな思いが蔵元や研究者を突き動かしました。
高知の挑戦が始まった
そこで動き出したのが県と蔵元、そして高知県工業技術センターや高知県農業技術センターなど研究機関みなさんでした。

高知酵母誕生のストーリー
土佐酒といえば「端麗辛口」。けれども時代は変わり、華やかでフルーティなお酒が人気を集めはじめ、全国の品評会でも甘口で香り高いタイプが受賞の上位を占めはじめるようになっていました。
「土佐酒の良さを守りながらも、新しい魅力を加えなければ生き残れない」
そこで高知県工業技術センターの研究者たちは蔵元と協力し、独自の酵母開発に挑戦します。
何百もの酵母を選抜・試験を繰り返す日々。
ようやく生まれたのが CEL-24 をはじめとする「高知酵母」でした。
しかし、開発当初は順風満帆というわけにはいきませんでした。
というのも、CEL-24 はあまりにも華やかで南国フルーツのような香りを放つため、従来の土佐酒のイメージからは大きく外れていました。
「香りが強すぎて料理に合わないのでは?」
「土佐酒らしい辛口とキレを壊してしまうのでは?」
多くの蔵元がそう考え、実際に積極的に使おうとする蔵はごくわずか。最初は 2、3の蔵が試験的に酒造りを始めたに過ぎなかった のです。
しかし、彼らが造った酒は、従来の土佐酒にはなかったフルーティで華やかな魅力を放ち、次第に若い世代や海外の飲み手に高く評価されるようになります。
そこから一気に「高知酵母」の可能性が注目され、徐々に多くの蔵元が使い始めていきました。
さらに研究チームは、当初から 海外市場も意識 していました。
「日本酒を飲み慣れていない海外の人にも受け入れられる味を」
ワインや果実酒文化に近いフルーティで華やかな香り、食事と合わせやすい酸味、そして高知らしいすっきりとした後味。この三拍子を揃えた高知酵母は、まさに“世界に通じる土佐酒”を目指して誕生したのです。
こうして生まれた高知酵母の登場によって、土佐酒は「辛口だけじゃない」「香りと旨みの両立」という新しい扉を開き、いまや世界のコンテストで次々と受賞を重ねるまでに成長しました。

高知ならではの酒米づくり
日本酒の味を決める大事な要素の一つが「酒米(さかまい)」です。
しかし高知は 日本一気温が高く、雨が多い地域。酒米づくりには厳しい条件でした。
そこで高知県は、農業技術センターと酒蔵が連携して独自の酒米の開発に挑戦します。
課題は3つありました:
- 高温でも病気に強く、安定して育つこと
- 精米しても割れにくく、雑味の少ない酒にできること
- 酵母との相性がよく、高知らしい味わいを引き出せること
何度も試行錯誤を重ねた結果、「吟の夢(ぎんのゆめ)」や「土佐麗(とさうらら)」といった高知オリジナルの酒米が生まれました。
また、高知県では、オリジナル酒米の開発と同時に、精米技術の革新にも取り組みました。
従来の精米方法には大きな課題がありました。
- 米の表面を削るときに割れやすくなる
- 砕けた米が雑味の原因になる
- さらに、外側に多く含まれる ミネラル分やたんぱく質が十分に取り除けず残ってしまう ため、発酵がコントロールしにくく、酒質に渋みや重さが出やすい
こうした課題を解決するために、県内に共同精米工場が設立され、最新の「原形精米」が可能になりました。

✅ 原形精米のメリット
- 米の形を保ったまま中心に近づけるため、割れにくい
- 外層のミネラル・たんぱく質を効率よく除去でき、雑味が少ないクリアな味わいに
- より安定した発酵が可能になり、米の旨みと酸味のバランスが生きる
この「酒米 × 精米 × 酵母」の三位一体の進化によって、
土佐酒は 端麗辛口のキレに加え、
- 雑味のない透明感
- 酸があって飲み飽きない軽快さ
- 華やかさや芳醇さも表現できる
まさに 三拍子そろった酒質へと進化し、世界的な評価にもつながっています。
高知方式という仕組み ~データを共有する酒造り~
土佐酒の進化を支えたもう一つの大きな柱が、「高知方式」と呼ばれる取り組みです。
通常、日本酒造りは各蔵元が自分たちの経験や勘を大切にして、それぞれのやり方で行うのが一般的です。蔵ごとに秘伝を守り、情報はあまり外に出さないのが通例でした。
ところが高知では、消費減少への危機感を背景に、県内18蔵(2024年10月より19蔵)が垣根を越えて協力。
工業技術センターと県が主導し、全ての蔵の「醪(もろみ)」の発酵データを集めて共有するという前例のない仕組みを導入しました。
✅ 高知方式の特徴
- 各蔵のもろみを科学的に分析し、温度変化や酵母の働き、糖や酸の生成データを数値化
- そのデータを全蔵で共有することで、発酵の失敗リスクを減らし、安定した酒質を実現
- 若手杜氏や後継者不足の蔵でも、データに基づく酒造りが可能になり、技術の平準化と底上げが進んだ
- 同時に、各蔵はそのデータを活かして独自の個性をさらに磨くことも可能に
つまり、「科学的に酒造りを支える」仕組みと「蔵同士で競い合いながら助け合う文化」が融合したのが高知方式です。
この方式によって、
- 土佐酒全体の品質が底上げされ
- 世界に通用する安定感と個性を両立した酒質が実現
- 県内蔵が一丸となって海外市場にも挑戦できる体制が整った
高知方式は、まさに「酒造りのオープンイノベーション」と言える取り組みなのです。

コンクールのルールを変えた土佐酒 ~グルコース別審査が生まれた背景
2016年、全米新酒鑑評会の審査チームは、ある事実に気づきました。
「受賞しているお酒のほとんどが甘口である」ということです。
特に大吟醸部門では、
- 大吟醸Aの94%以上
- 大吟醸Bの68%以上
がグルコース濃度2%以上の甘口タイプであり、合計すると受賞酒の84%が甘いお酒という状況でした。
🎯 なぜ甘口ばかりが評価されたのか?
甘口のお酒を先に飲むと、その後に出される辛口タイプが「渋い・辛い・薄い」と感じられてしまい、どうしても評価が下がる傾向にあったのです。
このままでは、
- 出品する蔵元が「受賞するために甘口タイプを造る」ようになってしまう
- 日本全国のお酒の個性が失われてしまう
と強い危機感を覚えたのが、高知県の関係者でした。
✅ 高知からの提案
そこで、高知の技術者・蔵元たちは、全国新酒鑑評会や全米日本酒鑑評会に対し、
「グルコース濃度の低いお酒から順番に審査する方式」を提案しました。
この提案が採用され、現在の審査方法につながっていったのです。

世界が認めた土佐酒
こうした挑戦の積み重ねが実を結び、今や土佐酒は世界で受賞ラッシュが続いています。
2024年の全米日本酒鑑評会では金賞数と金賞率で堂々の日本一の快挙を達成しました。
出品27銘柄が出品された中、19銘柄が金賞、7銘柄が銀賞の合計26銘柄が入賞しました。
2025年の全国新酒鑑評会でも受賞率1位、金賞率2位と好成績をキープしています。
土佐酒は今や、辛口、甘口、酸味とバリエーション豊富で、辛口ながら酸がしっかりあって飲みごたえがあり、雑味のないキレイな味という「三拍子そろったお酒」として、世界中のファンを惹きつけています。