土佐酒の魅力 世界に発信 宇宙、深海耐えた酵母 県酒造組合「勇気与えてくれた」高知県地場産大賞(高知新聞2022.12.22 08:38を転載)

第37回県地場産業大賞に選ばれた県酒造組合(高知市廿代町)は、宇宙と深海を旅した県産酵母で土佐酒を造るという、世界唯一の取り組みを結実させた。高低差は実に406キロ、無重力から600気圧までの過酷な環境を耐え抜いた酵母は、宇宙深海酒として新たな時代へ。理事長の竹村昭彦さん(60)は「ウィズコロナ、アフターコロナという圧力にも打ち勝つ勇気を与えてくれた。全国、世界へと発信したい」と力を込める。

2005年10月、ロシアのロケットに乗った県産酵母が宇宙に向け旅立った。

 上空400キロに10日間滞在した県産酵母は、翌06年春に県内酒蔵が「土佐宇宙酒」として発売した。
宇宙酵母は、果実のような吟醸香の成分が多く含まれ、香りが強い。「宇宙のように華やかな香り」として県内外の左党から注目され、初年度は720ミリリットル瓶で9万5千本、約2億円を出荷。焼酎ブームに押されがちだった土佐酒の消費量をぐんと押し上げた。

 しかし、ブームは間もなく収束。翌07年度から1万本前後で推移し、近年は数千本に減っていた。そんな宇宙酵母の復権を目指して湧き上がったのが、今度は真逆の深海へと送る一大プロジェクトだった。

“鍛錬”繰り返す

初挑戦は19年3月。マイナス80度で冷凍保存していた宇宙酵母を、海洋研究開発機構が手配した調査船で水深約5500~5800メートルの海底に沈めた。1年後、関係者は大きな期待を胸に、深海から酵母を引き上げて生きているか確認した。

 結果は全滅―。プロジェクトの中心を担った県工業技術センターの上東治彦さん(62)=現・酒造組合技術顧問=は「まさか、と。マスコミも招いていて、全滅が分かるとその場が凍り付いた。人がいる宇宙船の中と600気圧の違いが身にしみた」と振り返る。

 とても、諦められなかった。「圧力に弱いなら、強い酵母を育てるまで」。上東さんはそう考え、機械で酵母に高い圧力をかけて、生き延びた酵母を培養してさらに圧力をかけるという“鍛錬”を繰り返した。21年1月、よりすぐりのエリート酵母をさらに深い6200メートルへと再び送った。

高知新聞2022.12.22の記事より引用

4カ月後、上東さんが鍛え上げた酵母は、ごく少数だが深海から生きて帰還した。「生存確率、わずか3億分の1」(竹村さん)という宇宙深海酵母がついに誕生。県内6蔵元がこの酵母で仕込み、21年末に宇宙深海酒として発売した。

やや甘めながら酸味もしっかりした飲み応えのある土佐酒に仕上がり、売り文句は「宇宙のように果てしない香りと深海のように深い味わい」とさらに長くなった。

「月か、それとも…」
 組合は今年1月、別の県産酵母をみたび、水深5600メートルの深海に送った。水深がやや浅かったため、今度は全ての酵母が生還。宇宙深海酵母は3種から9種に増え、県内酒蔵は、酵母を選んで宇宙深海酒が造れる体制が整いつつある。

 「県外の人からしたら、『また高知が何かやっている』と思うかも」と竹村さんはくすくす笑う。「それでえいがよ。誰かが何かのきっかけで土佐酒に興味を持ってくれれば、可能性は広がるき」

高知新聞2022.12.22の記事より引用

土佐酒は、今年の全国新酒鑑評会で金賞受賞率が全国1位となり、県内蔵元のレベルの高さを内外に示した。21年の県の食料品輸出では酒がユズを抜いて1位になるなど、海外からの評価も高まっている。

 竹村さんが言う。「高知の売りは、食、酒、人、楽しい宴。土佐酒が盛り上がれば、日本中、世界中から人を呼べる。どんどん盛り上げていきますよ。深海の次は、月か、それとも地の底か」

チャレンジ精神は尽きない。(大山泰志)

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